スリー・ビルボード

ドラマ
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クライム コメディ ダーク・コメディ ドラマ ミステリー

第90回アカデミー賞では、作品賞、脚本賞を始め6部門で7ノミネートされ、フランシス・マクドーマンドが主演女優賞、ウディ・ハレルソンと共にWノミネートされ、サム・ロックウェルが助演男優賞を獲得したドラマ作品。
社会派ドラマでありながら、過激な表現、暴力も交え、且つイギリス人が好むダーク・コメディ(ブラック・ユーモア)映画でもある。メガホンを取ったマーティン・マクドナーの作家性が遺憾なく発揮されている。また、現代版のウェスタン(西部劇)とも言える雰囲気も醸し出している。

おすすめ度:3.9

スリー・ビルボード 作品情報

基本情報
2017年製作/115分/アメリカ、イギリス/原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri

スタッフ
監督:マーティン・マクドナー/製作:グレアム・ブロードベント、ピーター・チャーニン、マーティン・マクドナー/製作総指揮:バーゲン・スワンソン、ダーモット・マキヨン、ローズ・ガーネット、デビッド・コッシ、ダニエル・バトセック/脚本:マーティン・マクドナー/撮影:ベン・デイビス/美術:インバル・ワインバーグ/衣装:メリッサ・トス/編集:ジョン・グレゴリー/音楽:カーター・バーウェル etc.

キャスト
ミルドレッド:フランシス・マクドーマンド/ウィロビー署長:ウッディ・ハレルソン/ディクソン巡査:サム・ロックウェル/アン:アビー・コーニッシュ/チャーリー(ミルドレッドの元夫):ジョン・ホークス/ジェームズ:ピーター・ディンクレイジ/レッド・ウェルビー:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/パメラ:ケリー・コンドン/ロビー(ミルドレッドの息子):ルーカス・ヘッジズ/セドリック巡査部長:ジェリコ・イバネク/アバークロンビー:クラーク・ピータース/アンジェラ:キャスリン・ニュートン/デニース:アマンダ・ウォーレン/ジェローム:ダレル・ブリット=ギブソン/ディクソンの母:サンディ・マーティン/ペネロープ:サマラ・ウィービング etc.

スリー・ビルボード 主な受賞歴

映画賞受賞回(年度)受賞部門受賞者・受賞作品
アカデミー賞第90回(2018年)主演女優賞
助演男優賞
フランシス・マクドーマンド
サム・ロックウェル
ヴェネツィア国際映画祭第74回(2017年)脚本賞マーティン・マクドナー
ゴールデングローブ賞第75回(2017年)作品賞(ドラマ)
女優賞(ドラマ)
助演男優賞
脚本賞
スリー・ビルボード
フランシス・マクドーマンド
サム・ロックウェル
マーティン・マクドナー

スリー・ビルボード あらすじ(ストーリー概要)

アメリカ合衆国ミズーリ州の片田舎の町エビング(架空の町)。何者かによって娘アンジェラがレイプされた上に焼き殺されるという凄惨な事件が発生した。7ヶ月経過した後も犯人の逮捕はおろか手掛かりさえ掴めずにいる警察に業を煮やした母親ミルドレッドは、無能な警察への抗議の為、町はずれの道路沿いに立つ3枚の巨大な広告板(スリー・ビルボード)を借り受け、メッセージを貼り出す。そこは娘の殺害現場でもあった。

  • なぜ?ウィロビー署長(How Come, Chief Willoughby?)
  • 犯人逮捕はまだ?(And Still No Arrests?)
  • レイプされて死亡(Raped While Dying)

この看板を貼り出したことで、この静かだった田舎町に波風が立ち始める。
ウィロビー署長は人格者として町の人たちから慕われていた。ミルドレッドが置かれている状況に同情的であった住民達も、今回の彼女の広告版の設置行為には行き過ぎた行為であると考えられた。
中でもレイシスト(人種差別主義者)として知られるディクソン巡査の怒りは凄まじいものがあった。加えて、ウィロビー署長は余命いくばくもない膵臓癌に侵されており、町中のほとんどの人がその事実を知っていた。

真摯に向き合おうとするウィロビー署長。その署長を敬愛するディクソン巡査からの嫌がらせ。町の人々からの抗議・冷ややかな態度。アンジェラの死に悲しみを抱いていた元夫チャーリーも今回のミルドレッドの行為には批判を浴びせた。
だが、ミルドレッドは全く意に介さなかった。息子ロビーと二人孤立無援の一家を支えていたのは、只、娘アンジェラの無念を晴らしたいという強い一心だった。そして、この事が予想外の結末へと向かうことになる。

スリー・ビルボード 感想・レビュー(ネタバレ)

レビューの前に一言。本作「スリー・ビルボード」は言語化するのは本当に難しい。。勿論、自分の表現力が乏しいのは前提なのだけど。だからこそ、見応えのある作品に仕上がっているとも言える。ゆくゆく、アップデートする事になるはず。できるだけ分かりやすい様に、ポイントを絞ってまとめてみようと。

スリー・ビルボードのテーマとは?

本作が伝えったかったこと。本編中のセリフ「怒りは怒りを来す」でしっかりと表現されている。そして、「過ちを犯した者を赦すこと」、「赦すことよって、怒りは怒りを呼び、憎しみは憎しみを呼ぶ負の連鎖を止めることができる」。これこそが正に本作のテーマだ。聖書のようである。
そして、重要な役割を果たすのが、ウィロビー署長と部下のディクソン巡査だ。

ミルドレッドの怒りと赦し

  • 怒り 娘アンジェラを殺された母ミルドレッドの怒りの矛先はウィロビー署長に向けられる。
  • 赦し ウィロビー署長は自分の至らなさを認め、全てを包み込む。

ディクソン巡査の怒りと赦し

  • 怒り 本来は正しくありたいと思っているができない。
  • 赦し ウィロビー署長の遺書
  • 怒り レッド(広告代理店経営者)への暴行
  • 赦し レッド本人の赦し(病院でレッドが差し出したオレンジジュース。そしてストローをディクソンの方に向けてあげる優しさ。泣いてしまった。)

自らの怒りに任せて行動していたミルドレッドとディクソン巡査の二人が、ウィロビー署長の自殺がきっかけとなり(ディクソン巡査にとっては、レッドの赦しも)、気持ち・行動が変化していく。そして、予想外ラストシーンへと繋がる。ラストでミルドレッドが見せる笑顔。劇中、一度も笑うことのなかったその笑顔が全て(テーマ)を物語っている。

俳優達の名演技

監督を務めたマーティン・マクドナーの予測不能な脚本は勿論だが、本作を重厚なドラマたらしめているのは、やはり俳優陣の卓越した演技力によるところが大きい。
本作でアカデミー主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンド(「ファーゴ」(1997年)に続き2度目の受賞)は、殺された娘の母ミルドレッドを演じている。
表情、雰囲気で無残に殺害された娘への愛慕・悲しみを漂わせながら、時に偏屈とも思える力強く頑固な女性を見事に演じている。言葉を発せずとも表情だけで伝わる演技は圧巻の一言。画面からでも近寄りがたい雰囲気を漂わせて。少し前では日本でも同じような真に役者と呼ばれる俳優達は多かった。今ではホント少なくなってしまった。

そして、本作でアカデミー助演男優賞Wノミネートとなったサム・ロックウェル、ウディ・ハレルソン二人の演技も素晴らしい(受賞はサム・ロックウェルのみ)。

見事、アカデミー助演男優賞を獲得したサム・ロックウェルは感情を抑えられず、警官でありながら一般市民に平気で暴力を振るってしまうレイシスト(人種差別主義者)のディクソン巡査を迫真の演技で演じている。

一方、受賞こそ逃したもののウディ・ハレルソンも、全てを冷静に受け止める人格者としてのウィロビー署長を存在感たっぷりに演じている。

劇中で触れられている実際の事件

本作では劇中での会話、風刺されている実際に起こった幾つかの事件が描写されている。

①広告版を設置した事を批判した神父にミルドレッドが反論した会話の中

この会話の中で、「カトリック教会を揺るがした神父による児童への性的虐待事件」を暗示している。
1985年までに11,000件を超える事件が発生していたというこのスキャンダル。この事件は、第88回アカデミー作品賞にも輝いた実録映画「スポットライト 世紀のスクープ」(2015年)として映画化されている。

②劇中で何度か触れられている黒人いじめ・差別

本作の舞台となったミズーリ州で起こった実際の事件。2014年、白人警官が丸腰の18歳の黒人青年を白昼に公然と射殺した「マイケル・ブラン事件」だ。

③劇中で描かれたレイプ事件

物語終盤、アンジェラをレイプ、焼殺した犯人らしき人物が登場する。結果として、DNA鑑定の結果、犯人ではないとされるが、機密情報とされた海外で悪事をやらかしていた。そしてその国のヒントが「砂っぽいところ」だ。
これは、2006年、イラク戦争時に、アメリカ陸軍兵士達が14歳のイラク人少女を集団強姦(レイプ)し虐殺し、その家族も虐殺された「マフムーディーヤ虐殺事件」を暗示している。
この事件は、第64回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したブライアン・デ・パルマ監督の「リダクテッド 真実の価値」(2007年)で映画化されている。

④レッド(広告代理店経営者)を同性愛者(ゲイ)と糾弾

ゲイが殺害された事件を暗示。
1976年、ワイオミング州ララミーで発生した事件。マシュー・シェパードが同性愛者を理由に殺害された。「マット・シェパードは私の友達」(2014年)というドキュメンタリー映画も製作された事件であり、「ブロークバック・マウンテン」(2005年)の元ネタの一つともされている。

1999年、ネブラスカ州フンボルトで起こった強姦(レイプ)・殺害事件。被害者はトランスジェンダーであったブランドン・ティーナ(身体は女性)。主演のヒラリー・スワンクが第72回アカデミー主演女優賞を獲得した「ボーイズ・ドント・クライ」(1999年)で映画化されている。

ダーク・コメディ(ブラック・コメディ)の名手:マーティン・マクドナー

監督マーティン・マクドナーはダーク・コメディ(ブラック・コメディ)の名手と知られている。本作でもいかにもイギリス人らしいブラック・ユーモアが溢れている。
現代社会が向き合うべき「怒りが怒りを呼ぶ負の連鎖」「人種差別」「性的虐待」「暴力」「DV」「セクシャルマイノリティー」「相手を赦すこと」「自分自身を赦すこと」等の様々な問題が2時間に満たない作品にこれでもかと盛り込まれ、痛烈な風刺となっている。

スリー・ビルボードの真犯人

本作のラストは「怒りは怒りを来す」という言葉通りに行動していたミルドレッドとディクソン巡査が、ウィロビー署長の「死」「手紙」により「贖罪」「赦し」が芽生え、「他者・自分を赦すこと」「それぞれの存在を受け入れること」という本作のテーマを象徴するラストになっている。

さて、アンジェラを殺害した真犯人は誰なのか?劇中で伏線は設けられているものの物語のラストでも描かれてはいない
本作の監督・脚本を手掛けたマーティン・マクドナー自身、「登場人物のキャラクターの変化を楽しむ映画で、真犯人が誰かは重要ではない」的な発言をしていた。

公開前後にはネット上でも大いに賑わった真犯人探し。観る人がそれぞれの解釈をして想像を巡らせてみるのも映画の楽しみの一つ。本作にもそういったミステリー要素が備わっている。

個人的には、ミルドレッドに自ら犯行を仄めかし、DNA鑑定にかけられたバーの男が最有力と思う。9ヶ月前に滞在していた国も国家機密として明かされず、その国でも何らかの悪事を働いていた上層部からの圧力があったのかなどと想像してしまう。まして、バーでは自ら事件の詳細を誇らしげに話している。アンジェラがレイプ・焼殺されたのは7ヶ月前で、その頃には帰国していたことになるのか…。

スリー・ビルボード まとめ

公開当時、観たいと思っていた作品。でもその重々しい作品性から劇場に足を運べず、ようやく鑑賞した。重厚なドラマでありつつ、マーティン・マクドナー監督の作風らしいイギリス作品の様なブラック・ユーモア・風刺を楽しめる作品。僕はブラック・ユーモアが大好き。もう少し早く鑑賞すればよかったと思った。
エンターテインメント作品としても楽しめるが、やはり考えさせられる作品には違いない。そういったテーマが好きな人は楽しめるのではないでしょうか。

スリー・ビルボード こんな人におすすめ

  • 作家性を持つ映画監督の作品を観たい人
  • ダーク・コメディ(ブラック・コメディ、社会風刺)が好きな人
  • 社会派ドラマが好きな人
  • ミステリー作品(謎解き)が好きな人

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