家族を想うとき

ドラマ
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation,France 2 Cinema and The British Film Institute 2019
ドラマ

日本でもヒットした「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年)で第69回カンヌ国際映画祭、パルム・ドール賞に輝いた(「麦の穂をゆらす風」(2006年)に続き2度目の受賞)、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品。
これまでも労働者階級や貧困、移民などの数々の社会問題をテーマに鋭く切り込んできたケン・ローチ監督。本作でも新自由主義経済のグローバル化が進む現代の厳しい労働環境で働く人たちの実態を、ゼロ時間契約を余儀なくされているある家族を通して描いている。

おすすめ度:4.0

家族を想うとき 作品情報

基本情報
2019年製作/100分/イギリス・フランス・ベルギー合作/原題:Sorry We Missed You

スタッフ
監督:ケン・ローチ/脚本:ポール・ラバーティ/製作:レベッカ・オブライエン/製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー グレゴリア・ソーラ バンサン・マラバル/撮影:ロビー・ライアン/美術:ファーガス・クレッグ/衣装:ジョアン・スレイター(ジョアンヌ・スレイター)/編集:ジョナサン・モリス/音楽:ジョージ・フェントン etc.

キャスト
リッキー(父親):クリス・ヒッチェン/アビー(母親):デビー・ハニーウッド/セブ(長男):リス・ストーン/ライザ(長女):ケイティ・プロクター/マロニー:ロス・ブリュースター etc.

家族を想うとき あらすじ(ストーリー概要)

イギリス、ニューカッスルで暮らしているターナー家。正社員として働く事を希望していた元建築労働者の父親リッキーだったが、安い給料での雇用にうんざりしていることもあって、友人の紹介もあり、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立することを決心する。宅配会社の現場マネージャーのマロニーの「勝つのも負けるのもすべて自分次第。」と煽られ、働けば働くほど稼げる“個人事業主”という選択に、家族の為にマイホーム購入の夢を託すことに。

うまい話には必ず裏があるもの。宅配会社とリッキーとの雇用はいわゆる“ゼロ時間契約”と言われる形態。宅配に使用する車両をはじめ、必要な機器等の諸費用はすべてリッキー(個人事業主)側の負担しなければならない。稼ぐ為には多くの配送をこなさなければならず、配達のノルマが与えられ、不足の事態が起きれば、正規雇用と異なり何の保障もされないどころか、ペナルティーが科される契約だ。更に、配送状況、ルート等全ての勤務状況がGPS付端末で分単位で管理されているのだ。

母親のアビー(リッキーの妻)もまた、パートタイムの訪問介護士(介護福祉士)として家族の為、時間外までほぼ一日中働いていた。
夫リッキーの宅配車両用のバンを購入する為に、妻アビーの車を売却することに。遠方のお年寄りの家へも訪問介護が必要なアビーにとって、車は必需品だったが、借金を抱えている二人にはそれしか選択肢はなく、1日14時間を週6日、2年続ければマイホーム購入できるという夫リッキーの説得に折れる形で渋々売却した。

車を売却した事で介護先へバスで通うことになったアビーは、その長時間移動のせいでますます家にいる時間がなくなり、夫リッキーも1日14時間の勤務に加え、過酷なノルマを課され、休みも取れず、心身共に疲弊していく。
16歳になる息子セブ、12歳の娘ライザと思春期の子供たちとのコミュニケーションも留守番電話でのメッセージで語り掛けるだけ。一家の楽しみでもあった家族団らんの時間などはまったく取れない。

家族の幸せを願い、夢を叶えるはずの仕事が家族の想いとは逆にその時間を奪っていく。何とか状況を打破すべく修復を試みるリッキーとアビーだったが、それもまた仕事に遮られ、子供たちは寂しさを募らせていく。そんな時、リッキーがある事件に巻き込まれ…。

家族を想うとき 感想・レビュー(ネタバレ)

社会問題を鋭く描く“反骨の映画人”、ケン・ローチ

今年(2020年)で84歳のイギリス人映画監督・ケン・ローチ。“反骨の映画人”として知られ、その長い映画人生で描いてきたのは、労働者階級や社会的弱者の人たち、そして彼らを通して、社会問題を鋭い視点で見つめ、抉り出してきた

カンヌ国際映画祭で2度目のパルム・ドール賞を受賞し、日本でも大ヒットした前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年)では、イギリスで働く老齢の大工と彼と出会ったシングルマザー一家を通して、イギリスの社会保障の複雑さと貧困の現実を淡々と描いた。この作品で引退表明をしていたケン・ローチ監督。

その彼が引退宣言を撤回してまで製作したのが「家族を想うとき」だという。
何が彼をそこまで駆り立てたのか。

「『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)を撮り終えた後、多分、これが私の最後の映画になると考えていた。でも、リサーチのために出かけたフード・バンクのことが心に残って…。そこに訪れる人々が、パートタイムやゼロ時間契約(注1)で働いていた。いわゆるギグエコノミー(注2)、自営業者あるいはエージェンシー・ワーカー(代理店に雇われている人)、パートタイムに雇用形態を切り替えられた、新しいタイプの働き方をする労働者のことが、忘れられなかった。次第に『わたしは、ダニエル・ブレイク』と対をなす、作る価値があるテーマだと思った。」と振り返る。

引用元:anemo

本作で問いかけているメッセージ

「1日14時間、くたくたになるまで働いているバンのドライバーを介して買った物を手に入れるということが、持続可能なシステムなのか?友人や家族の関係性までに影響を及ぼしてしまうほどの、プレッシャーのもとで人々が働き、人生を狭めるような世界を、私たちは望んでいるのだろうか?資本主義のシステムは、金を儲けることが目的で、労働者の生活の質には関係がない。ごく普通の家族が、ワーキング・プアに追い込まれてしまう。だから登場人物に共感し、彼らと共に笑い、彼らの問題を自分ごとのように感じて欲しい。」

引用元:anemo

齢84にもなるケン・ローチ監督の製作意欲、そして世界で起きている社会問題に疑問を投げかけ、警鐘を鳴らす姿に心から敬意を払いたい。

ゼロ時間契約、そして…

本作で描かれている「ゼロ時間契約」。「ゼロ時間契約」とは、週あたりの労働時間が明記されない形で交わされる雇用契約のこと。そもそも、何故このような雇用形態が出てきたのか。

第二次世界大戦後から1970年代のイギリスは、小学校の教科書にも出てきた“ゆりかごから墓場まで”のスローガンの元、福祉国家の典型、模範だった。しかし、福祉が向上することで、財政的赤字は膨大なものとなり、1970年代のイギリスは“イギリス病(英国病)”と呼ぼれる程の経済的逼迫をもたらした。そして福祉そのものがその最大の原因とされ、国民健康保険(NHS)が機能しなくなる程の資金不足に陥り、経済的余裕のある人たちは私的保険に加入する様になる。
その様な社会的、経済的背景の元、1979年、あの“鉄の女”の異名を取るマーガレット・サッチャーが政権の座に就く。そして、“貧困は自己責任”などとされ、新自由主義的改革が始まる。そして、この“新自由主義”的改革が現代に於いて、様々な歪を生み出している

“新自由主義”とは一言で、政府の社会への介入は最小限であるべきとする立場のこと。その結果、“経済重視の政策”が最優先され、ひいては“公的医療サービスの縮小”“実力主義の結果の格差拡大”“社会保障の縮小”などの様々な問題が生まれてきた

生産性、効率性のみが最優先とされ、その競争に取り残された人たちは、「ゼロ時間契約」を余儀なくされる。そして、貴重な時間まで犠牲にして労働を余儀なくされる。家族の幸せの為の労働のはずが、その家族をもバラバラにしていく。

“人は何のために働くのか?”“人は生きるために働くのか?”“働くために生きるのか?”。誰しも一度は考えたことがあると思う。
このイギリスの「ゼロ時間契約」問題は、日本では差し詰め、オンコールワーカー(オンコール労働者)も含めた「非正規雇用」問題になるのだろうか。
人間の尊厳とは何か?、IoT、ビッグデータ、AI(人口知能)等の技術革新が自分たちの雇用・労働環境にどの様な影響をもたらすのか?。身近な問題としても捉え、考える必要のあるテーマだ。他人事ではない。

家族を想うとき まとめ

重いテーマだ。そして、ケン・ローチ監督らしく、怒りに満ちた描写ではなく、淡々と描写していく。
だからこそ、余計に辛くなってしまう。
僕も、社会問題としては勿論、自分の身近な問題として考えさせられてしまった。そのテーマ性もあり、中々鑑賞できなかったのだが。
制作を生業としている自分の日々の業務でも、効率性が最優先される。勿論、大事な事なのだが。あまりにも効率性、生産性のみが優先され時間的にまったく余裕がないと、よいアイデア一つ出てこなくなってしまう。
仕事、日常生活、家族との生活に於いても、時間的ゆとりというのは本当に大事だ。

日本、世界が直面している問題として考える切っ掛けになるのは勿論、自分たちのワークスタイル、ライフスタイルを今一度見直す切っ掛けにもなる映画です。

家族を想うとき こんな人におすすめ

  • 「社会問題」に興味がある人
  • 「社会派ドラマ映画」が好きな人
  • 「ワークスタイル」「ライフスタイル」を見直したい人
  • 「ケン・ローチ監督作品」が好きな人
  • 「労働問題」に興味がある人

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